目次
- 更年期疲労とは「女性ホルモンの変化」から起こる不調の悪循環
- 更年期のだるさやメンタル不調と「気」「血」の深い関係
- 更年期に効果的な漢方薬の選び方
- 更年期の漢方薬にまつわるQ&A
- 走り続けてきた人は、自分と向き合う時間を増やそう
〜更年期のメンタルヘルスケア〜 - 賢いホットフラッシュ対策でつらい更年期を乗り越える
- 症状がつらいときは、病院で専門家に相談してみましょう
近年、40代以降の女性の多くが「だるい」「イライラする」「疲れやすい」「眠れない」といった目に見えない不調を抱えているといわれています。働きすぎや夜ふかし、不摂生といった物理的な理由がはっきりとわかっているのであれば、それらを取り除くことが一番ですが、そうではない場合は、更年期症状の可能性もあるでしょう。更年期の不調は100人いれば100通りの症状があるといわれています。また、年代によっても感じやすい不調が異なり、つらさの程度もさまざまです。そこで今回は、女性ホルモンの変化など、女性特有の理由で悩みやすい更年期について、だるさなどの「身体的な不調」やイライラなどの「メンタル不調」に着目し、漢方の視点から解説します。
更年期疲労とは「女性ホルモンの変化」から起こる不調の悪循環
更年期とは、女性が閉経を迎える前後5年間の約10年間のこと。女性一人ひとりの閉経時期によって、その期間や長さは変わってきます。この時期は、女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」が減少することで自律神経が乱れ、代謝や抗酸化力が低下傾向に。すると、エネルギーの生成量も低下してしまうため、本来なら疲れた日に「ぐっすり寝れば回復」するタイプの女性でも、疲れの原因となる活性酸素を取り除くことが困難になることがあります。また、眠いのに眠れないという「不眠」などの睡眠トラブルを引き起こす人も。そうなると余計に疲れが抜けづらくなるため、翌朝起き上がれない、日中だるい…という悪循環をくり返してしまいます。
更年期の不調は、他人からわかりづらいため「これって私だけ?」と思いがちです。しかし、更年期症状の種類や程度には個人差があり、年代によっても感じやすい不調が異なります。「アレ、おかしいな?」と思った段階で、早期対策を始めましょう。
・年代によって変わる更年期の代表的な症状
■30〜40代半ば(プレ更年期)
・生理不順や生理痛、PMSなどの月経トラブル
・疲労感、だるさ
・冷えなどの貧血症状
・イライラなどの精神不安
■40代半ば〜50代半ば
・肩こり、カラダの痛み
・のぼせやほてりなどのホットフラッシュ
・月経異常
・不眠
・不安感などの精神症状
■50代半ば以降
・頻尿などの尿トラブル
・40代半ばから続く更年期症状
・夜中に起きるなどの睡眠トラブル
更年期のだるさやメンタル不調と「気」「血」の深い関係
漢方では、心理的ストレスを受けると「気・血・水」の巡りをコントロールする「肝」の「疏泄(そせつ)」が乱れてしまいます。「肝」とは、精神や自律神経の機能、はたらきも含めた幅広い概念としてとらえます。
「気」の巡りが悪くなると、神経症など精神疾患のリスクが高まります。また、更年期に現れるさまざまな不調は、栄養や潤いと関係の深い「血(けつ)」との関係が深いと考えます。とくに血が足りない「血虚(けっきょ)」や、血行が悪い「瘀血(おけつ)」は、更年期症状の原因を引き起こしやすい体質です。
・気が滞ると…精神疾患、神経症などが増す
「気」の巡りが悪くなると、いわゆる「気滞(きたい)」と呼ばれる状態となり、動悸やだるさ、ストレスなどの精神疾患、神経症などが見られるようになります。「気」の動きが悪いと、体幹部でこもり、熱を生み、その熱が上の方に上がることで頭に汗をかいたり、のぼせたりする症状が見られるようになります。なお、気の巡りが悪いことで「血」の巡りにも影響を与えることがあります。
★気滞タイプとは
・血虚になると…だるさや集中力低下、イライラが増す
血が足りていない、いわゆる「貧血」の状態。栄養をカラダの中に運んだり、老廃物を排出したりする役割を果たす血液が不足しているため、だるさや疲れ、不眠などを感じやすいです。また、月経トラブルを抱えている人の中にも多いタイプ。集中力が低下し、気力がない、イライラするなども、血の不足が関係しているでしょう。血は慢性的なストレスなどでも消耗します。
★血虚タイプとは
・瘀血になると…肩こりや頭痛など「痛み」や「うつ症状」が起きやすい
血の流れがカラダの中で滞り、血行が悪くなっている状態。あざやクマができやすい人にも多いです。瘀血はホルモンバランスの乱れやストレス、冷えなどが拍車をかけてうつや落ち込みなどのメンタル不調を引き起こします。ちなみに、気(エネルギー)の不足が原因で血がめぐっていない場合も。気不足は、漢方では気虚(ききょ)と呼ばれ、神経症やだるさにもつながってしまいます。
★瘀血タイプとは
★気虚タイプとは
更年期に効果的な漢方薬の選び方
漢方薬には、更年期ならではのイライラや不安といった精神症状から、体力的な疲れ、ほてりなどのホットフラッシュ、冷えまで、さまざまな不調に役立つ処方があります。更年期症状のほかに「冷えやすい」「のぼせやすい」「虚弱体質かどうか」「月経トラブルの有無」といった、日常の中で自覚している体質や不調に適した漢方薬を選びましょう。
だるさや冷えを伴う更年期症状に
■柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
比較的虚弱体質な傾向の人に向いている漢方薬。貧血や冷え性に悩む人の動悸や息切れに適しているほか、ホットフラッシュなどの更年期症状にも使われます。仕事や家事がひと段落したときに、どっと疲れが出るといった人の自律神経を整えたり、興奮やイライラをしずめたりと、神経症に対する効果も期待できるでしょう。女性ならではの更年期不調やストレス不調に寄り添う処方です。
イライラなどの精神不調や肩こりが気になる人の更年期症状に
■加味逍遙散(かみしょうようさん)
疲れやすい方の冷え症、生理不順、更年期症状や、女性ホルモンの変動によって現れるイライラや不安感といったメンタル不調がある人に役立つ漢方薬。上がりがちな気をおろして全身にめぐらせ、余分な熱を冷やして血を補うことで、カラダのバランスを整えます。疲れやすい虚弱体質にもおすすめの処方です。
ホットフラッシュなどでほてりのある人に
■知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
更年期のホットフラッシュなどによる顔や手足のほてりを改善する漢方薬。カラダの生命エネルギー(精気)が不足すると、のぼせやほてりが現れやすいです。知柏地黄丸は、ほてりや口渇を伴う人の頻尿や排尿困難、むくみの症状にも用いられます。
血行や代謝が悪いタイプの更年期症状に
■当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
更年期の貧血や足腰の冷え、めまい、頭重感の強い人に使われることが多い漢方薬。血の不足を補い、カラダのすみずみまで栄養や熱を届ける働きが期待できます。また、血行と水分代謝を整え、気血水のめぐりを改善。更年期による症状だけでなく、月経トラブルなどにも使われることが多い処方です。
冷えを伴う生理痛や、冷えのぼせなどの更年期不調に
■桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血のめぐりが悪い、瘀血(おけつ)タイプの月経不順、月経痛、更年期不調に役立つ漢方薬。血をめぐらせることで、冷えとほてりが両方ともある「冷えのぼせ」などの更年期不調を改善します。また、PMSなど女性ホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状や身体症状にも一役。ニキビやしみなど、栄養不足で起きていた肌悩みにも効果が期待できます。
更年期の漢方薬にまつわるQ&A
Q1:更年期症状に漢方薬が適しているのはなぜ?
A:症状に対してピンポイントに働きかける西洋薬と違い、漢方薬はカラダ全体に働きかけることで、複数の症状を改善することができます。更年期障害の多くは、複数の症状が現れ、時期によっても異なることが多いだけでなく、個人差も非常に大きいようです。症状の現れ方や強弱は、ホルモンなどの身体的な要因に、ストレスなどの心理的な要因なども複雑に絡み合って起こると考えられるため、漢方薬のホリスティックな効果が役立つと考えられています。
Q2:漢方薬は、いくつかの種類を飲んでも大丈夫?
A:漢方薬によっては、一緒に飲むと同じ生薬成分が重なることにより、作用が強く出て、不快な症状が現れる場合があります。漢方薬を複数飲む場合は、飲まれる前にかかりつけの医師または薬剤師に相談してください。
走り続けてきた人は、自分と向き合う時間を増やそう
〜更年期のメンタルヘルスケア〜
更年期はできるだけ、背負ってきた責任や義務をそっとおろして、自分のために使う時間を増やしたいもの。好きな音楽や映画、香り、食べ物、行きたかった場所。自宅でできるストレッチや呼吸法、少し足を伸ばして温泉に行くプチご自愛旅もいいですね。
リラックスの秘訣は、ご自身の「したい」を優先すること。頑張り屋さんや働き者ほど、更年期に不調を感じたり、自律神経が乱れたりしがちです。家の中を見渡して「あれをやらなきゃ」「まだこれが終わってない」と気づいても、この時期はある程度後回しでOK。自分に対して「十分によくやってるよ」「まあ、いっか」と声をかけてあげてくださいね。そして、パソコンやスマートフォンから少し距離をとって、心とカラダをゆるめてあげましょう。おすすめの運動は、気をめぐらせるウォーキングや水泳。ピラティスやヨガといったストレッチもカラダの緊張やこわばりをゆるめます。
食事には、エネルギーに満ちた旬の野菜や消化に良いものを取り入れるのが効果的。とくに、イライラと関係の深い五臓の「肝」の熱を冷ます「苦み」のある野菜や、気を整える「酸味」のある柑橘類、消化の働きを助けてくれる「甘み」のある野菜がおすすめです。
無理に回復しようとしなくて大丈夫。先のことに思い悩まず、今に意識を向けて「ああ楽しいなあ」「心地良いなあ」と感じられる時間を持ちましょう。少しずつ心が静まりゆく感覚が、更年期を少しでも心地の良い期間に導いてくれるはずです。そして、家でリラックスする日を大切にする一方で、気心知れた友人に会ったり、趣味のコミュニティに参加したりして、外で社会のつながりを感じる時間も、良い気分転換になるでしょう。
賢いホットフラッシュ対策でつらい更年期を乗り越える
1.ネッククーラーなどの冷却グッズ
近年では、熱中症対策などにも使われているクールダウンアイテムが数多く販売されています。たとえば「アイスネッククーラー」は、中に氷水を入れて首からかけるだけ。肌温度を下げてくれる効果があり、持ち運びにも便利なのでおすすめです。
2.シルク素材で「涼」をキープ
寝具や肌着、Tシャツなど、肌に直接ふれる素材には、優れた吸湿性や放湿性があるシルク(絹)素材を選びましょう。肌にふれるとひんやりした感覚があり、汗をかいた後も肌をサラサラに保ってくれます。
3.ホットフラッシュを和らげたい時に避けた方が良い料理
カフェインやアルコールの飲み過ぎ、辛い料理や糖質の高い食事は、体温上昇や血管拡張、自律神経の乱れなど、ホットフラッシュを悪化させる原因に。また、水分不足もホットフラッシュを悪化させる可能性があるので、こまめな水分補給を心がけましょう。
症状がつらいときは、病院で専門家に相談してみましょう
更年期症状は十人十色です。つらいときは無理をせず、病院を受診しましょう。かかりつけ医がいる内科や婦人科、漢方内科、精神的な不調が強い場合はメンタルヘルスに詳しい精神科や心療内科もおすすめです。今、感じている不調が更年期によるものなのか、それとも他の病気が影響しているのかを診断してもらい、対策を立てましょう。
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執筆家、編集者、漢方スタイリスト、広告コピーライター。合同会社縁筆代表。出版社での雑誌制作、化粧品会社でのコピーライターを経て起業。自然療法や薬膳など、食と健康をテーマにした執筆活動を続ける。