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アンチエイジングに30年前から着目して米国・抗加齢医学会の専門医となり、最先端の研究を続けてきた日比野佐和子先生。カンポフルライフの読者に向けて、若さを保つために「今すべきこと」を3回連載でご紹介していきます。
若さを表す「体内年齢」は巻き戻すことができる
「40歳の大台に乗った」とか「もう60歳で還暦だ」とか、みなさん年齢を重ねることで年を取ったと感じていますよね。しかし抗加齢医学の領域では、実際の若さを判断する指標は暦年齢ではなく、エピジェネティック・クロック(生物学的年齢=体内年齢)と考えられています。
近年、この「体内年齢」を測定することで、遺伝子がどの程度“若い状態”を保っているかがわかるようになりました。暦年齢が40歳でも体内年齢が30歳の人もいれば、50歳の人もいます。体内年齢が若い人ほど病気になりにくく、見た目も若々しい傾向があります。そして嬉しいことに、この体内年齢は、日々の生活習慣を変えることで若返らせることができるのです。
私自身、現在55歳ですが、こうした習慣を始めてからは、何もしていなかった20代の頃よりも体調が良く、病気知らずで、周囲から「若く見える」と言われるようになりました。
ぜひ、今日から“若返りの習慣”を始めて、病気や不調を寄せつけない体を手に入れ、健康長寿を目指してください。
体内の「炎症」が見た目も体も老けさせる
今回は、体を老化させる大きな要因の一つである「炎症」についてお話しします。
抗加齢医学の領域では、一般的によく知られている「酸化」よりも、炎症のほうが老化への影響が大きいと考えられています。しかし、まだ広くは認識されていません。
炎症はさまざまな病気を引き起こし、老化を進める元凶です。
炎症とは、ぶつけた部分が赤く腫れたり、傷口が熱を持って痛んだりする反応のこと。風邪で熱が出るのも炎症の一種です。「赤み・熱・腫れ・痛み」の4つの症状が特徴です。これはつらい反応ではありますが、体が細菌やウイルスを排除し、組織を修復するための生体防御反応でもあります。
このように一時的に起こる反応を「急性炎症」と呼び、通常はけがや風邪の回復とともにおさまります。
一方で、老化を促進するのが「慢性炎症」です。自覚症状がほとんどなく、感染や外傷によらず、内臓や組織の機能異常などを原因として、静かに進行します。
慢性炎症は、火事のボヤのような軽い炎症がいつまでも収まらずにくすぶり続けて、細胞にダメージを与えます。これが「老化細胞」となって周囲の細胞にも炎症を広げ、さらに血流にのって全身に飛び火します。
この慢性炎症は、偏った食事、睡眠不足、運動不足、ストレス、肥満、加齢などによって長期化します。
たとえば、肥満は炎症の原因のひとつです。太った体には「脂肪細胞」がたくさんあり、これが炎症の元になります。つまり太っているかぎり、体内で炎症がえんえんと続くのです。
慢性炎症はまさに“万病の元”で、病気や不調のほとんどに関わっているとも言われています。
がん、心筋梗塞や脳卒中などの血管疾患、糖尿病、認知症、アトピー性皮膚炎、さらには頭痛や疲労、シミ・シワといった肌老化にも深く関わっています。いまこの瞬間も、あなたの体を老化させているかもしれません。
驚くべきことに、100歳以上の長寿者(百寿者)では、慢性炎症のレベルが低いことがわかっています。つまり炎症を抑えることこそが老化を防ぎ、健康長寿への道を開くカギなのです。
炎症を防いで若返りに働くエイジングケア
●質の良い油を摂る
老化ストップの大きなカギとなるのが、油です。
全身に数十兆個もあるとされる細胞での炎症を防ぐには、細胞の膜を強くして、炎症物質が入り込まないようにすることが効果的です。細胞を守る「細胞膜」は脂質でできており、質の良い油を摂ることが炎症予防の基本となります。
一方で、動物性脂肪などの「飽和脂肪酸」を摂りすぎると炎症を促進します。飽和脂肪酸は、常温で固まっている油です。バターやラード、脂身の多い肉などは摂取量を控えましょう。ただし、飽和脂肪酸も体にとって必要なものなので、一切食べないのではなく摂り過ぎないように注意して。厚生労働省が定めた摂取量を目安にすると、身長160cmでデスクワークが主な仕事の場合では、100kcal程度。1日10gちょっとというところです。
常温で固まらない油「不飽和脂肪酸」は、主に植物性のオイルです。これには炎症を抑える働きを持つものもあります。
「オメガ3系」油脂である、魚の油のEPAやDHA、えごま油や亜麻仁油のα-リノレン酸は、炎症を抑えてくれるので積極的に摂りましょう。「オメガ3系」は熱に弱いため、えごま油や亜麻仁油はサラダのドレッシングなどで、非加熱で摂るのがおすすめです。
また、「オメガ3系」は青魚やサーモンなどに豊富に含まれます。私は米国の抗加齢医学会に参加した当初から、サーモンの油には抗炎症作用があり、さらにアスタキサンチンという抗酸化成分も豊富なことで大好きになり、お寿司屋さんではもっぱらサーモンばかりを食べてしまいます。イワシも含めて、高級魚でなくても「オメガ3系」はたくさん摂取できるので、どんどん食卓にとり入れてください。
「オメガ9系」油脂とされる、オリーブオイルのオレイン酸にも抗炎症作用が期待できます。オリーブオイルを使う地中海地方の料理は、健康長寿に効果的という研究結果もあります。ただし、なんでも過剰に摂るのも害になる場合もあるので、注意しましょう!
一方、要注意なのが、サラダ油などのリノール酸を含む「オメガ6系」です。リノール酸は過剰に摂取すると体内で炎症を引き起こすことがわかっています。また、マーガリンなど人工的に作られた油脂は「トランス脂肪酸」を含み、炎症の元になります。
●精製された食べ物や人工的な食品を摂り過ぎない
白米や白い小麦粉、白砂糖など、精製された食べ物は血糖値を急激に上げ、炎症を誘発します。白い小麦粉を使ったパンやパスタなどの麺類、お菓子や甘い飲み物も同様です。また、人工甘味料や添加物を多く含む加工食品も炎症の原因になります。加工食品は原材料の表記をよく確かめましょう。
● 早歩きのウォーキングを習慣に
運動には炎症を抑える効果がありますが、激しい運動は逆効果です。
おすすめは早歩き程度のウォーキング。なお、少し息が弾むくらいのスピードで毎日行うと、体に良い刺激が加わり、炎症抑制効果が高まります。速歩きもしながら、毎日歩く時間を取りましょう。
私は毎日5階まで階段を上るようにして、自然に運動量を確保しています。
ちょっとした工夫で、日々の生活に運動を取り入れてください。
●水分補給を心がける
水分不足で血液がいわゆるドロドロ状態だと、血管が傷つきやすく、炎症が起きやすくなります。すると炎症物質が血流にのって、全身に炎症が飛び火することに。
血流をサラサラに保つため、午前中の水分補給がポイントです。夜に大量に飲むと、トイレの回数も増えるし、むくみにもつながります。夏で夜間の熱中症が心配なときはともかく、通常、夜は積極的に水分補給をしなくてよく、午前中から昼までに多めの水分補給を心がけてください。また、いっぺんに大量に飲んでも、体は水分を吸収しきれず尿で排出してしまいます。水は少しずつこまめに飲むのが正解です。
●睡眠ホルモン「メラトニン」で炎症を抑える
私たちが夜眠くなるのは「メラトニン」という睡眠ホルモンによるもの。このメラトニンの持つ、炎症抑制効果がいま注目されています。メラトニンをしっかり分泌させるには、腸内環境を整えることが大切です。発酵食品や食物繊維など、腸活に働く食材を意識的に摂り入れましょう。
また、メラトニンの生成にはたんぱく質が必要ですが、夜にメラトニンができるまで14時間くらいかかるので、朝食にたんぱく質を摂取するのが効果的です。卵、納豆、豆腐、焼き魚、牛乳、ヨーグルトなど、朝食の定番でOKです。
体内時計を巻き戻すために“炎症”を防ぐのは、日々の生活にちょっとした良い習慣です。なお、炎症を抑えるには漢方薬も有効です。慢性的な症状の原因には炎症が関わっていることが多いので、漢方医や薬局で相談してみてもいいでしょう。
今日から、自分の“体内年齢”を若く保つための一歩を踏み出してみてください。
プロフィール
医療法人社団康梓会 SAWAKO CLINIC x YS 統括院長、大阪大学大学院 医学系研究科 未来医療学寄附講座 特任准教授。エイジマネジメント医療の第一人者として、基礎研究から臨床まで国際的に活躍。最先端の遺伝子解析を含む予防医療・ゲノム栄養学・分子栄養学指導を通じて「科学に基づくアンチエイジング医療」を推進している。テレビ・雑誌などのメディアでも最新の知見を発信。著書に『アンチエイジングドクターに教わる長生きダイエット』『最新医学で証明された最高の食事術』など多数。