【医師監修】大人のADHDの特徴と簡単セルフチェック

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「ADHD(注意欠如・多動症)」は、生まれながらの脳の働き方の違いによる特性ですが、子どもの頃は気づかず、大人になってから周囲に適応しづらくなり発覚するケースも少なくありません。そんな「大人のADHD」の特性や治療法、本人や周囲が注意すべき点について、駿府こころのクリニック院長の髙橋健二先生にお伺いしました。

じつは大人になってから気づくケースも多いADHD

― ADHDの特徴的な症状には、どのようなものがあるのでしょうか?

髙橋先生:ADHD(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)は、主に「注意欠如」「多動性」「衝動性」の3つの特性を持つ発達障害です。「注意欠如」はミスを繰り返す、忘れ物が多いなど、「多動性」は落ち着きがない、集中力が続かないなど、「衝動性」は、思い立ったらすぐに行動してしまう、順番を待てないなどといった形で表れることが多いです。3つの特性が混ざり合い、遅刻したり、大事な予定を忘れたり、失言をしたりと、仕事や日常生活においてさまざまな困りごとを引き起こすことがあり、その影響は本人だけでなく、周囲の人々にも及んでしまいます。

インタビューに答える駿府こころのクリニック院長 髙橋健二先生

― ADHDになる原因は何なのでしょうか?

髙橋先生:ADHDの原因は、現時点では明確に特定されていませんが、生まれつき持っている脳の性質や働き方、その後の発達の仕方に偏りがあることで起こると考えられています。生まれながらの特性ですので、大人になってから発症するわけではありません。ですが、子どもの頃は症状が目立たず、大人になってから気づくケースも珍しくないのです。

― 大人になってから気づくのには、理由があるのでしょうか?

髙橋先生:子どもの頃の生活の中心は学校です。学校は時間割や規則など決まりごとが多いため、それなりに対処してしまえるお子様もいらっしゃいます。親や教師の目が行き届きやすい環境ですし、友達がフォローしてくれることもあるでしょう。ですが、社会に出て世界が広がり、人間関係なども複雑化してきたときに初めて、うまくいかないことが増えていきます。私の病院でも、仕事でミスを繰り返したり、人間関係でつまずいたりすることが続いて、「自分は他の人と少し違うかも?」と、受診される方が多くいらっしゃいます。

― 子どもの頃と大人になってからでは、症状は変わってくるのでしょうか?

髙橋先生:人それぞれではありますが、席を立って動き回る、大声を出して騒ぐといった本能的な行動は、経験でカバーできるようになることから成長とともに減っていく傾向にあります。しかし、内面の落ち着かなさは残っているため、待つことにイライラしたり、人の話を最後まで聞けず、さえぎったりするといった現れ方をします。また、大人になると、自身の特性や症状による失敗を自覚しやすくなるため、不安障害や抑うつ障害、引きこもり、不眠など、さまざまな二次障害につながるリスクが高くなります。

簡単なセルフチェックでADHDの特性があるかどうかがわかる

― 「もしかしたら自分はADHDかもしれない」と思い当たったとき、病院にかかる前に、自己診断をすることはできますか?

髙橋先生:広く使われているのはASRSという大人のADHDのスクリーニングに使用されるチェックリストです。ネットなどで検索すれば出てきますので、活用してみるのもよいでしょう。そこまで本格的なものでなく、次に挙げる項目をチェックするだけでも、自分にADHDの傾向があるかどうかがわかります。

□ 提出期限を守れない、書類を紛失するといった単純なミスを繰り返す
□ 時間の管理が苦手でスケジュールをうまく組み立てられない
□ いくつかの仕事を並行して進めること(マルチタスク)ができない
□ 身の回りが片付けられず、常に散らかっている
□ 貧乏ゆすりなどをして常に体を動かしてしまう
□ 会議や会話などの際に落ち着きがない
□ 相手の話が聞けず、話をさえぎったり、一方的に話したりしてしまう
□ 衝動買いを繰り返してしまう
□ 約束や、しなければならない用事を忘れてしまう

― 当てはまる項目が多いほど、ADHDの可能性が高いということでしょうか。

髙橋先生:そうですね。ですが、おそらくは誰でも何かしらの項目は引っかかるはずで、重要なのは、このような特性によって困っているかどうか。症状が問題なのではなく、困り感が出ることで、はじめて治療対象になるんです。集中力がないといっても、いろいろなところに目を向けられるという意味ではプラスにもなり得ますし、衝動性も、フットワークが軽いなど、よい方向に作用してうまく活用できていれば問題ないのです。一方で、本人や周囲が困っていて、二次障害につながるようなケースはしっかり治療する必要があります。

ADHDについて解説する駿府こころのクリニック院長 髙橋健二先生

大人のADHDの治療は環境調整からはじまる

― 大人のADHDが疑われる場合には、何科を受診すればよいのでしょうか?

髙橋先生:精神科や心療内科を受診していただきたいのですが、その際、「話を聞いてもらいに行く」感覚で気軽に来院してほしいですね。診断そのものはさほど重要ではなく、いきなり薬を処方することもありません。まずは「どんな場面でどんなふうに困っているのか」じっくり話を聞き、一緒に対策を立てていくことが大人のADHDに向き合う初期ステップになります。

例えば、遅刻が多いのならスマホのタイマーアプリを使って、歯磨き5分、着替え5分といった具合に支度の時間配分を設定したり、仕事でミスを繰り返すのであれば、その人にとって効果的なメモの取り方を考えてみたり。人それぞれに苦手なこと、困っていることは違うので、一人ひとりに最適な環境を考えて調整します。うまくハマって困り感が減ればOKですし、改善が見られなければ別の方法を試して……あれこれ工夫してみてもうまくいかない場合には、本人と相談のうえで薬の力を借りることもありますが、環境の調整のみで、かなり改善できる人もたくさんいます。

大人のADHD特有のイライラ、不安感などに漢方薬が力を発揮

― 先生が、大人のADHDの治療に使用する漢方薬を教えてください。

髙橋先生:漢方薬は、ADHDの治療薬を使う前段階で処方することが多いです。衝動性が抑えられず、イライラしてしまう場合には、神経の高ぶりを鎮める作用がある抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが効果的です。患者さんからも、飲みはじめたら「すごく穏やかになった」「イライラが減った」「イラッとしても爆発せずに待てるようになった」といった声がよく聞かれます。また、ミスをして落ち込んでいる方には、不安感を和らげるために半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を処方することもあります。

イライラや不安に対して、西洋薬では眠気やふらつきのリスクもゼロではありません。一方、それらにアプローチできるうえに眠気などのリスクが少ない漢方薬はとても頼りになる存在です。加えて、先ほどもお話しした通り、大人のADHDは二次障害のリスクが高いのですが、漢方薬の服用は、さまざまな二次障害の緩和にも有効だと思います。

大人のADHDへの対応策は?

― 大人のADHDと診断を受けている人が、日常生活で気をつけることや、うまく対応するコツを教えてください。

髙橋先生:まずは、どんなことをしんどいと感じているか、うまくできないことは何か、一方で、どんなことが得意なのか、自分自身についてよく知ることです。そのうえで、苦手なことをカバーして、得意なことを伸ばしていける環境づくりをしてみましょう。診察をしていても、意外と自分自身のことをわかっていない患者さんは多く、面談で、つらいこと、苦労していること、楽しいことなどを言葉にしていくうちに「そうだったのか」と気づけたりするものです。気づきが得られれば、それに合わせて解決策を考えていけますし、家族や職場の同僚など、身近な人に特性を理解してもらい、協力してもらうことで当人の負担を軽減できます。

― 大人のADHDの人に接する際、周囲はどのようなことを意識するとよいでしょうか?

髙橋先生:わかりやすく、具体的な伝え方を工夫することが大切です。例えば「気をつけてね」「しっかりやってね」などでは、ADHDの人はどうしていいかわかりません。本人としては気をつけているのにミスをしてしまうわけですから。そのような曖昧な表現ではなく「○日までにこれを仕上げてね」「○○を忘れているよ」など、具体的に伝えることが円滑なコミュニケーションのポイントです。また、スケジュール管理が苦手な人には「一緒にスケジュールを確認しようか?」、忘れ物が多い人なら「忘れ物のチェックリストを作ろうか?」など、一歩踏み込んで声をかけてあげるのもよい方法だと思います。

― 周囲のサポートを得ることも重要なのですね。

髙橋先生:その通りです。一人で抱え込んでいても何の解決にもつながらないし、放置して状況が悪化していけば、それだけ立ち直ることが難しくなります。早めに自身の特性に気づき、環境を工夫したり、特性を周囲に伝えて支援を受けたりすることで、スムーズに社会生活を送れる可能性が広がります。

仕事や人間関係などでちゃんとやっているつもりなのにうまくいかないことが増え、「もしかしたら自分はADHDかも?」と思ったら、まずは一度医療機関に相談をしてください。病院はハードルが高いと感じるのならば、地域の保健センターや発達障害者支援センターの相談窓口を利用するという方法もあります。早めの対処が、よりよい日常を送る第一歩になるはずです。

院内でインタビューを受けている駿府こころのクリニック院長 髙橋健二先生

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髙橋 健二先生

駿府こころのクリニック 院長。精神保健指定医・精神科専門医。基礎研究者として脳の研究に従事したのち、精神科専門医として静岡県内の病院に勤務。2019年5月、駿府こころのクリニックを開院。患者との対話を重視し、一人ひとりと丁寧に向き合う外来診療を行っている。

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