漢方療法推進会 こころとからだに自然の力

漢方について

漢方ってすばらしい! ~10分で読める 漢方医学コラム~

東洋医学の主役といえる漢方。今、多くの医療機関で漢方薬が処方されるなど、東洋医学の可能性について大きな期待が寄せられています。この秘めたるパワーをもった漢方のことをもっと知りたいという方へ贈る、10分で読める漢方コラムです。

― 第10回 ―

夏の疲れと暑さを乗り切るオススメの胃腸漢方はこれ!

上海中医薬大学附属日本校
校長 矢尾 重雄(医学博士)

胃腸の状態は舌の状態で判断できる

夏バテの女性イメージ

日本の夏はジメジメ・ムシムシとした蒸し暑さが強いため、“からだがだるい”“ヤル気が出ない”“食欲がない”など、いわゆる「夏バテ」で悩まれる方が多く見られます。そんな季節には、健康のために“最適な温度”と“最適な湿度”の環境を保つことが重要です。それでも「夏バテ」になってしまうことはありますが、その際に漢方や薬膳を用いることにより、さまざまな「夏バテ」の症状を緩和することが可能です。

「夏バテ」で一番ダメージを受けやすいのは胃腸といえます。まず、毎日鏡でご自身の舌を見てみてください。「舌診(ぜっしん)」といい、「舌」の状態を診てからだの状態の情報を得ようとする診断の方法になります。この“舌診”を行えば、胃腸の状態を知ることができます。


舌診 イメージ

舌診は舌全体および舌の表面の舌苔(ぜったい)の状態を観察します。
まず、舌本体の状態が痩せている場合は栄養状態が悪く、亀裂がある場合はからだを構成する物質や体液の不足(中医学では陰虚津液不足(いんきょしんえきぶそく)という)と考えられます。舌に歯型がついている場合はエネルギー不足(気虚(ききょ))によるだるさによるものです。舌色が深い場合は血行不良(瘀血(おけつ))、舌色が薄い場合は貧血(血虚(けっきょ)など)が考えられます。このように、舌はからだの状態を反映しています。
また、舌の表面に見られる苔は胃腸の状態を反映しています。苔が黄色で厚い場合は、消化不良で飲食物が胃腸に滞って蓄積しているか(食積(しょくせき))、水分や熱が滞って蓄積している状態(湿熱(しつねつ))と考えます。白色で厚い場合は浮腫など液体の代謝の問題が反映しているとされます。このように「夏バテ」による胃腸の問題は、漢方では舌苔で判断できると考えられています。

夏バテにおすすめの薬膳料理

このような夏バテに対処する料理として、「薬食同源」の薬膳料理をおすすめできます。今回は、「ゴーヤ(苦瓜)と豚肉の炒め物」をご紹介いたします。

ゴーヤ(苦瓜)は夏バテの予防をはじめ、解毒作用や血糖値降下、血圧降下などの薬効があります。調理法でゴーヤ独特の苦味をやわらげることが可能ですが、この苦味は薬効と関連しています。豚肉のアミノ酸は疲労回復に重要な役割があります。豚肉はビタミンB1が豊富で牛肉の約10倍も多く含まれています。ビタミンB1は炭水化物などの糖質をエネルギーに変え、疲労の回復を早め倦怠感を予防します。

ゴーヤイメージ

材料

  • 豚薄切り肉100g
  • ゴーヤ100g(中くらいのものを1本)
  • ねぎ10センチ
  • しょうが薄切り2~3枚
  • サラダ油大さじ1
  • 調味料(塩小さじ1、紹興酒小さじ2、醤油とごま油、こしょう少々)

作り方

  1. 苦瓜はタテに切ってわたをこそげ取り、厚さ1センチに斜め切りする。塩(調味料外)を振ってもみ、熱湯でさっとゆがいてザルにとる。これで苦味がやわらぐ。
  2. 豚肉は食べやすい大きさに切り、醤油とごま油各少々をまぶして下味をつけておく。ねぎと生姜はみじん切りにしておく。
  3. 中華なべを加熱し、薄く煙が立ったらサラダ油を入れて、ねぎと生姜を炒める。
  4. 苦瓜と豚肉を炒め合わせ、塩、胡椒、紹興酒で調味し、水気が飛んだら醤油少々、ごま油少々で香り付けしてできあがり。

(中医健康養生学講座「応用編」テキストより)

夏バテにおすすめの漢方処方

「夏バテ」に対応する漢方はたくさんありますが、そのなかから代表的なもの4つを紹介します。

  1. 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):からだも胃腸も弱い、だるい、舌には歯型があり、苔が薄い場合に。
  2. 人参養栄湯(にんじんようえいとう):補中益気湯の症状に貧血や手足の冷えの特徴がある場合に。
  3. 六君子湯(りっくんしとう):補中益気湯の症状に吐き気や消化不良の症状がある場合に。
  4. 五苓散(ごれいさん):下痢やめまい、吐き気があり、苔は白く厚い場合に。

漢方や薬膳のチカラを借りることは日本の過酷な夏を元気に過ごす方法のひとつです。ぜひ参考になさってみてください。

上海中医薬大学附属日本校 校長 矢尾 重雄(医学博士)

上海中医薬大学附属日本校
校長 矢尾 重雄(医学博士)

矢尾重雄先生プロフィール

  • 1958年3月生まれ(中国名 姚重華)
  • 1978年2月上海中医薬大学医療学部入学。1984年7月卒業。
  • 1984年8月より上海市第一人民病院で臨床医として勤務。中国の国宝級の名老中医に師事。臨床医として経験を積んだのち日本に渡る。
  • 1994年3月神戸大学大学院医学研究科(分子病理学)で医学博士の学位を取得。
  • 1994年4月よりP&G(プロクター・アンド・ギャンブル社)、1997年9月より大塚製薬株式会社にて二十数年間にわたり医薬品開発と臨床開発に従事。
  • 2017年12月より上海中医薬大学附属日本校校長に就任。長年培った医薬経験を生かして、日本の東洋医学の発展に貢献している。

上海中医薬大学付属日本校ホームページ