漢方薬「葛根湯」は、以下の2つの仕組みで、
体がかぜのひきはじめに対処するのを助けることが、最新の研究からわかってきました。
この2つの仕組みで、ウイルスが体の中で広がりにくくなり、かぜ症状の改善に重要な役割を果たしていると考えられます。

漢方薬「葛根湯」は、かぜのひきはじめに効果があるとされています。
では、なぜ「かぜのひきはじめ」に飲むことが大切なのでしょうか。
実はかぜのひきはじめでは、ウイルスが体の中で少しずつ増え始め、広がろうとしています。
近年の研究では、この段階で漢方薬「葛根湯」を服用すると、複数の仕組みによってウイルスの広がりや症状の進行を抑える可能性があることがわかってきました。
今回は、ウイルスが体の中で広がろうとする段階に注目した最新の研究をもとに、漢方薬「葛根湯」がかぜのひきはじめに効く仕組みについてご紹介します。
漢方薬「葛根湯」は、
①体がウイルスを捕まえる/増えるのを抑える働きを高め、②ウイルスが細胞に入り込む“入口”を減らす
という2つの仕組みをもっていることがわかりました。
かぜのひきはじめには、体の中でウイルスの広がりを防ぐためのさまざまな反応が起こります。今回の研究では、漢方薬「葛根湯」がそれらの反応にどのような影響を与えるのか検証しました。
体には、ウイルスに対抗するためのさまざまな仕組みがあります。そのひとつが「細胞外小胞(EV)」です。EVは、細胞が細胞の外へ放出する小さな袋のようなもので、ウイルスに本物の細胞と勘違いさせる「おとり」として働きます。EVがウイルスを捕まえることで、本物の細胞への感染を防ぐことができるのです。
さらにEVには、細胞のウイルス防御力を高め、ウイルスが増えにくい状態にする「miR-17」と呼ばれる成分が含まれており、miR-17が周りの細胞に届くことで、それらの細胞の防御力も高まることが示唆されています。
今回の研究では、ウイルスに感染すると細胞はEVを通常時より多く放出するようになり、漢方薬「葛根湯」を加えることで、さらに増えることがわかりました。また、EVの中に含まれるmiR-17も増えることがわかりました。
このことから、漢方薬「葛根湯」は体がもともと備えている「ウイルスを捕まえる/増えるのを抑える働き」を高めることで、感染後にウイルスが体の中で広がるのを抑えている可能性が考えられました。

今回の研究では、ヒトの鼻腔由来の細胞(HNEpC)を使って、ウイルスに感染したときに見られる反応を誘導しました。そして、EVの数やEVに含まれるmiR-17が、漢方薬「葛根湯」によってどのように変化するのかを調べました。

鼻腔由来の細胞(HNEpC)にウイルス模倣体(poly(I:C))を導入し、感染時の細胞反応を誘導しました。次に、漢方薬「葛根湯」を添加して、培養しました。その後、培養液を回収し、そこに含まれるEVの数とEV内のmiR-17の量を調べました。
ウイルスが体に侵入すると、免疫応答として体は細胞外小胞(EV)を増やすが、漢方薬「葛根湯」はEVを感染(模倣)時に比べ、感染(模倣)+漢方薬「葛根湯」処理群では、4.6倍に増加させた。
平均値±標準偏差SD(n=3)。一元配置分散分析後,Tukey検定。**p<0.01(感染群との比較)。
漢方薬「葛根湯」は、EV1個の中に含まれるmiR-17(※1)の量を感染(模倣)時に比べ、感染(模倣)+漢方薬「葛根湯」処理群では2.7倍にまで増加させた。
(※1)マイクロRNA(microRNA, miRNA)と呼ばれる、タンパク質に翻訳されない短いRNA分子の1つ
平均値±標準偏差SD(n=3)。一元配置分散分析後,Tukey検定。*p<0.05(感染群との比較)。
「受容体」は細胞表面にある分子で、決まった物質が受容体に結合すると、その刺激が細胞に伝わり、さまざまな反応が引き起こされます。一方で、一部のウイルスは受容体を利用して細胞に入り込みます。そのため受容体は、ウイルスにとっては細胞への“入口”といえます。
実はウイルスに感染すると、体はウイルスを排除しようと防御反応を起こし、その過程で細胞の受容体を増やしてしまいます。すると、結果としてウイルスが細胞に入り込むことができる入口が増え、感染がさらに広がりやすい状態になってしまうのです。
そこで、この反応に対する漢方薬「葛根湯」の影響を調べたところ、防御反応に伴って増えた、ウイルスの“入口”となる受容体を持つ細胞の割合を減らすことがわかりました。細胞に入り込むことができるウイルスの数も減ると考えられます。
つまり、漢方薬「葛根湯」は、ウイルスが細胞に入り込みにくい状態にすることで、体の中でウイルスが広がるのを抑えている可能性があると考えられました。

ヒトの鼻腔由来の細胞(HNEpC)を使って、ウイルスに感染したときに見られる反応を誘導しました。そして、「ウイルスの入口」となる受容体を持つ細胞の割合が、漢方薬「葛根湯」によってどのように変化するのかを調べました。

鼻腔由来の細胞(HNEpC)にウイルス模倣体(poly(I:C))を導入し、感染時の細胞反応を誘導しました。次に、漢方薬「葛根湯」を添加して、培養しました。その後、培養した細胞を回収し、ウイルスの入口となる受容体(ICAM-1、LDLR)をもつ細胞の割合を調べました。
感染が起こると、ライノウイルス受容体ICAM-1およびLDLR(※2)は細胞表面に表出する。
漢方薬「葛根湯」によって、ウイルスの入口をもつ細胞の割合が、ICAM-1では約40%から約10%へ、LDLRでは約64%から約39%に減少した。
(※2)代表的なかぜウイルスであるライノウイルスは、細胞表面にあるICAM-1(細胞間接着分子1)又はLDLR(低密度リポタンパク質受容体)と呼ばれる受容体を利用し、細胞に入り込む。
平均値±標準偏差SD(n=3)。一元配置分散分析後,Tukey検定。*p<0.05,**p<0.01(感染群との比較);##p<0.01(未感染群との比較)。
漢方薬「葛根湯」は、ウイルスが周りの細胞に広がるのを抑えました。
漢方薬「葛根湯」のかぜ(ウイルス感染)に対する効果を調べるために「プラーク形成法」という実験方法を使いました。

この方法では、ウイルスの細胞への感染のしやすさや、感染したウイルスが周りの細胞へ感染を広げる様子を、目で見て評価することができます。
ウイルスに感染すると細胞は壊れてはがれ落ちるため、細胞がなくなった部分が白い「穴」のように見えます。この穴が「プラーク」です。
この実験では、主に次の2つのポイントから薬の効果を評価します。
感染の起点となった細胞の数を示します。プラーク数が少ないほど、ウイルスが細胞へ感染するのを抑えたと考えられます。
感染した後にウイルスがどれだけ周りの細胞へ広がったかを示します。プラーク面積が小さいほど、感染拡大が抑えられたと考えられます。

この研究では、細胞にかぜの原因となるウイルスを感染させ、漢方薬「葛根湯」を加えたときのプラークの数や面積を調べました。
漢方薬「葛根湯」は、感染前と比較し、プラーク数には影響しなかった。一方で、ウイルスに感染した細胞の面積(白色)は、漢方薬「葛根湯」の濃度が高くなるほど小さくなり、500µg/mLでは約3分の1になった。
平均値±SD(各群3 wells)。一元配置分散分析後,Tukey検定。***p<0.001(感染群との比較)。
協力:北里環境科学センター(報告書番号:北生発2025_0009号)
プラーク形成法を用いて調べたところ、漢方薬「葛根湯」はプラークの数には影響を与えませんでした。一方で、プラークの面積は、漢方薬「葛根湯」の濃度が高くなるほど小さくなることがわかりました。
この結果は、漢方薬「葛根湯」が、ウイルスに感染した後に周囲の細胞へ広がる過程を抑えるということを示しています。
今回の研究から、漢方薬「葛根湯」は、
①体がウイルスを捕まえる/増えるのを抑える働きを高め、②ウイルスが細胞に入り込む“入口”を減らす
という2つの仕組みがあることが分かりました。これらの仕組みによって、かぜのひきはじめにウイルスが体の中で広がるのを抑えることが、かぜ症状を改善することにつながると考えられます。
今回は、漢方薬「葛根湯」が、なぜかぜのひきはじめに効くかについて調べた最新の研究をご紹介しました。
今回の研究では、2つの仕組みで漢方薬「葛根湯」がかぜのひきはじめにウイルスの広がりを抑えることで、かぜ症状を改善する可能性が示されました。また、その作用は実際にウイルスを用いた実験でも目で見える形で確認されています。
以上、今回ご紹介した仕組みは次の2つです。
今後は、漢方薬「葛根湯」がかぜのひきはじめに効く他の仕組みについてもご紹介していく予定です。
※本内容は、漢方処方に対する基礎研究に基づくものであり、特定製品の効果を評価したものではなく、また人に対して同様な効果が得られることを保証するものではありません。