暮らしのヒント
第5回 食養生・薬膳
食材=薬という視点から健康管理をするのじゃ!
漢方ではその長い経験で、食べ物とその効能についての知識の蓄積がされてきました。食事で健康になる、病気を治すことは、毎日の積み重ね。食と健康の関係が注目されている今、漢方の考えを毎日の食生活に取り入れて、病を寄せ付けないカラダを目指してみてはいかがでしょう。
食べることから始まる健康

東洋では、古代より「医食同源」や「薬食同源」という考え方があります。食べものと薬の源は同じとされていました。
中国の伝説上に、自らが実験台となって食べ物の薬効を調べ、分類した「神農」という名前の農耕・医薬の神さまがいます。神農様はどの植物がカラダを丈夫にするのか、薬として有効なのか、毒は無いかなどを調べました。この話は、漢方薬のルーツである古典の中のひとつ『神農本草経』に収録されています。
中国から漢方の知識とともに入ってきた神農様は、日本でもとても人気があり、江戸時代以来多くの掛け軸や像が作られ、大切にされてきました。また、クスリの神様として尊敬を集めており、東京の湯島聖堂では神農様が祀られていて、大阪の道修町にある少彦名神社には日本の薬の神様の少彦名命とともに、神農様も祀られています。
この、『神農本草経』は、世界最古の薬物書と言われています。その中では、食べものを効用から3つのランクにわけています。上品(ジョウホン)、中品(チュウホン)、下品(ゲボン)とあり、なかでも中品にはネギやセリなど日常の食べものが含まれています。ここでは、薬性が強く、病気療養に主に用いられるものよりも、毎日食べてからだを丈夫にするものこそが、カラダを養う最高の上薬とされています。
最古の医学書とされる『黄帝内経』では、日常の養生に重点を置いてのべられている「素問」という章があります。ここでは平素の生活の基本について、自然と人体の調和や、飲食物のバランスの必要性が説かれています。
「穀は養いをなし、畜は益をなし、菜は充をなし、果は助をなす」
と記してあり、これを現代語にすると、
「人の生命を日常に養うには穀類を主食とするのがよく、畜肉の動物性タンパク質が人体を栄養し増益させ、野菜類の水分・ミネラル・繊維などが体調を整え、果物は野菜をよく助ける」
という意味です。
さらに、食べものの味や性質をあわせて、バランスよく摂取することで精力が増し、気力を充実させることができると書かれています。
毎日の食事でもできる「薬膳」

雑誌やレストランなどで「薬膳」という言葉を目にしたことはありませんか? 漢方でいう食事療法をひとくくりに「薬膳」と呼ばれることが多いのですが、3つの意味があります。1つ目は、病気の治療を目的とした「食療」。そして未病の状態を保つ「食養」。最後に療に漢方生薬を加味して薬効をたかめる「薬膳」です。日本でみなさんの身近にあるものは、「食養」をメインとして未病の状態を保つものです。
食事で健康をつくる、病気を治すという考えは、生活習慣病など毎日の食生活などが原因となる病気が増えている昨今、医療界以外でも注目を集めています。そして、現代の栄養学による食事指導も大きな成果をあげています。
現代の栄養学では、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素やカロリー(エネルギー)をベースに食品を捉えていて、食事指導は、カロリーや塩分を制限すること、バランスよく栄養素を取り入れることを中心に行われています。さらに新たな栄養素も次々に発見され、現在も進化している最中です。
漢方における食事療法は、現代の栄養学の栄養素やカロリーという視点とは異なります。詳しくは次回説明しますが、長い歴史から判明した効用に基づいています。例えば、栄養学からいうと、ビタミンが豊富でカラダによいとされている緑黄色野菜も、漢方の食事療法では、カラダを冷やす食べものなのです。
このように、漢方では食べものの効能と、その人の体質や症状に合わせて、摂ってよい食べものとよくない食べものを決めていきます。そのため幅広い病気、症状の改善が期待できるのです。
例えば、ダイエットでも、カロリー制限はしません。その人の水分代謝の改善、ストレス、血液循環の問題など原因がどこにあるか、体質(冷え性、熱がりなど)、体力などによって、食事療法も変わってくるのです。
食べものの性質を知り、日常の食生活に取り入れることで、自分の体質や症状にあった「食養生」になるわけです。
教えて仙人
- 問)漢方薬は水または白湯で服用となっていますが、「白湯」とは?
- 答)
白湯(さゆ)と読みます。ぬるめのお湯を指します。
冷たい水は、カラダを冷やすことにもつながりますので体温と同じくらいの白湯、または常温の水で服用することをおすすめします。
今月の心得
毎日の食生活が健康を作る!
これは毎日の積み重ねがものを言うのじゃ!