角質層の細胞間脂質の中にある、水分と油分(脂質)が交互に並び、ミルフィーユのような層状になっている構造を「ラメラ構造」といいます。このラメラ構造があることで、脂質のあいだに一定量の水分をつなぎ止めておくことができます。
細胞間脂質は、セラミド、脂肪酸、コレステロールといった脂質の成分でできています。保湿成分として注目されているセラミドは、ラメラを構成する一成分です。材料が十分に足りていることも大切ですが、うるおいの根源であるラメラ構造がきれいに整っていることが、肌のうるおいを保つには重要です。
水と油(脂質)の層(ラメラ構造)が整っているほど、水分がしっかりと角質層に保持され、柔らかくなめらかな肌が保たれます。
角質層の構造はレンガとモルタルの壁のよう
「ラメラ構造」が一定量の水分を保持
- 肌の水分を保持する角質層
人の体の約70%は水分からできていますが、放っておけばどんどん外に出ていってしまいます。肌のうるおいを守っているのは、肌の最も外側にある角質層という部分です。角質層の厚さは、足の裏や手のひらを除けば、およそ0.02mmと、ちょうどポリエチレンラップのようなもので全身が包まれているようなものです。角質層に覆われていることで、体内に蓄えられている水分が出ていってしまうのを防いでいます。
また、角質層には化学物質や細菌、ウイルス、アレルゲンといった有害な物質が体内に侵入するのを防ぐ役割もあります。体を守る強固なバリア機能を担っているのです。角質層はたった0.02mmの“強力なバリア”
- 性質の異なる2つのラメラ構造
細胞間脂質のラメラ構造には、層の長さが約6ナノメートル(nm)の「短周期ラメラ構造」と、約13nmの「長周期ラメラ構造」の2種類があり、それぞれがランダムに配列しています。
短周期ラメラ構造は、脂質の層のあいだに水の層が入っており、水分調節をしてくれます。長周期ラメラ構造は、その形成にセラミドが不可欠であることが報告されており、肌のバリア機能をつかさどる非常に重要な構造であると考えられています。肌のラメラ構造には2種類のカタチがある
- ラメラ構造の乱れが乾燥を招く
ラメラ構造の乱れと水分喪失
普段、角質層における水分の割合は20〜30%程度に保たれています。角層細胞内には天然保湿因子(NMF)があって水分を保持し、肌表面では皮脂膜が水分の蒸散を防いでいます。また、ラメラ構造のおかげで、どんなに乾燥した環境でも水分を一定量に保つことができるのです。
しかし問題になるのは、ラメラ構造が何らかの理由で乱れたり壊れてしまったときです。乱れたラメラのすきまから過度に水分が体外に出ていき、角質層の水分量が10%以下にまで低下すると、肌はカサカサとうるおいがなく荒れた状態になります。ラメラ構造は外部からの刺激に弱く、乱れたり壊れたりしやすいのが弱点です。一日の中で水分が奪われやすい代表的なシーンは、入浴後や洗顔後。下のグラフは、洗顔をしてから2分後、5分後、10分後、20分後、120分後の角質層の水分量を測定したものですが、洗顔後10分のあいだに、ぐっと水分量が下がってしまうことがわかります。洗顔後の角質層水分量の変化
検証の結果、ボディ洗浄料の成分である界面活性剤がラメラ構造に入り込むことで、構造が乱されていることが判明しました。ボディ洗浄料や石けんを使ってからだを洗うことは、雑菌や汚れを取り除き、肌のバリア機能を正常に働かせるためには大切なことです。しかし一方で、その成分がラメラ構造に悪影響をおよぼし、乾燥の原因となっていることが明らかになりました。
ボディ洗浄料の成分がラメラ構造に浸入して構造を乱す
- ナノレベルの検証で発見
角質層はわずか0.02mmのごく薄い膜。その中のラメラ構造はナノレベルのサイズで、顕微鏡では小さすぎて見ることができません。そこでクラシエは、放射光を用いた特別なX線によって、ラメラ構造の観察を行いました。
角質層を洗浄成分に浸けると、短周期ラメラ構造にはほとんど変化はありませんでした。一方、長周期ラメラ構造は膨らんで、ラメラ周期が広がりました。またこの時の強度が下がったことから、構造の規則性が乱れていることが分かり、洗浄成分によって、特に長周期のラメラ構造が乱れることが明らかになりました。角質層をボディ洗浄料に浸けたときのラメラ構造の変化
- 世界最高性能の
研究施設SPring8街一個分にもなる巨大施設「SPring-8」
放射光で極小のものが識別できるしくみ
大型放射光施設「SPring-8」は、太陽の100億倍にも達する「放射光」という光を使って、原子・分子レベルの極小の世界の様子を調べることができる研究施設です。私たちの目は、物質に当たって跳ね返ってきた光を見て物質の色や形を認識しています。原子や分子は、可視光では識別することはできません。しかし放射光という強い光を当て、その跳ね返り方や吸収のされ方を解析することで、その姿を捉えることができるのです。
SPring-8で作りだされる放射光の強さ、そして品質は世界最高性能です。国内外から研究者が訪れ、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野の研究開発に利用されています。放射光で極小のものが識別できるしくみ
- ボディ洗浄料での洗浄後、
過剰に水分が失われる洗浄成分で洗浄した後の、肌からの水分蒸散量を見ると、20分後に大きく上昇し、60分後にはほぼ洗浄前の値にまで回復しています。(右図A)しかし肌の水分量を見ると、洗浄後に低下したまま回復していません。(右図B)
洗浄成分によって長周期ラメラ構造の乱れが起こり、その結果として水分蒸散量が一時的に増えて過剰な水分が失われ、肌の乾燥が進んでいると考えられます。洗浄成分で洗浄したときの
水分蒸散量と表皮水分量の変化
ラメラ構造に浸入する洗浄成分は分子サイズが小さいために、ラメラの中に入り込んでしまいます。そこでクラシエは、分子サイズの大きな洗浄成分を中心に最適な洗浄成分を研究し、ラメラに浸入しない洗浄成分の開発に成功しました。
また、タオルや手でこするといった刺激によってもラメラ構造は変形してしまいます。そこで、角質層内の乱れたラメラ構造のすきまに入り込み、うるおいで包み込む成分を配合しました。クラシエによる次世代洗浄技術「ラメランス テクノロジー」が、お風呂あがりにも乾燥せず、本来のみずみずしい肌を取り戻すことを可能にします。
クラシエ独自の新技術「ラメランス テクノロジー」
※世界初:洗浄での皮膚への作用メカニズムにおいて2成分(※1、※2)を配合することで、ラメラ構造を崩さずに洗う独自のボディウォッシュ処方(Mintel Japan社データベース内 2016年11月クラシエ調べ)※1 ラウロイルアスパラギン酸 ※2 ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、セラミド2、セラミド5
クラシエ独自の新技術「ラメランス テクノロジー」
- うるおいを元から逃がさない
「ラメラケア」とはこれまで、肌を乾燥から守る方法は、不足している成分や保湿効果のある成分を補給する、いわば“与える保湿”が主流でした。細胞間脂質の成分であるセラミドや、角層細胞で水分保持に働く天然保湿成分(NMF)、アミノ酸などを補充したり増やしたりする成分が配合されたボディ洗浄料も増えています。
しかし、肌のバリア機能の根幹を担うラメラ構造の乱れは、水分をたくわえておく器に漏れが生じるようなものです。
いくら外から与えても、水分の喪失は防げず、肌の乾燥はなかなか改善しません。
これからのスキンケアとして、ラメラ構造を守りうるおいを肌から逃がさない「ラメラケア」を意識してみましょう。
洗浄直後の水分蒸散量は、「水のみで洗っただけ」と同等に抑えられた。「ラメランス テクノロジー」を応用したボディ洗浄料は、お風呂あがりの「魔の15分」にどのくらい違いが出るかを検証したのが右のグラフです。ラメラ構造が維持されているかどうかは、構造が乱れてどのくらい水分が出ていったかを測る「水分蒸散量」が目安となります。これをみると、ラメランス テクノロジーでは、水分蒸散量は水のみで洗っただけの場合と同等に抑えられています。
ラメラ構造は、タオルで強くこすっただけでも多少乱れるほど動きやすいものです。ラメランス テクノロジーでは、水のみで洗ったときと同じように、ラメラ構造にやさしく洗えていることが示されました。
洗浄後の水分蒸散量の比較
- 1週間使用後の
表皮水分量がアップこれまでは、入浴後すぐクリームやローションなど保湿剤を使用することで肌のうるおいを保つことが推奨されてきました。これは、すぐに保湿剤でカバーしないと乱れたラメラ構造のすきまからどんどん水分が逃げていってしまうためです。
入浴後の保湿を行わずに、ラメランス テクノロジーを応用したボディ洗浄料を1週間使い続けたあとの肌の水分量をみると、使用前に比べて増えていることがわかります。続けて使うことで、肌本来のうるおう力が整ったためと考えられます。1週間使用後の表皮水分量
- 洗浄後何もしなくても、
キメの整った乾かない肌に角質層の水分が十分に保持されていると、肌はキメが細かく、柔らかになります。ラメランス テクノロジーを応用したボディ洗浄料を使用すると、従来品を使用したときと比べ、洗浄後の肌のキメが整い、ふっくらとしています。肌断面図を見ても、ラメラ構造が崩れずに保たれていることがわかります。
洗浄後の肌のキメ
肌断面図によるラメラ構造の検証
「見えないものを見る」を追求して
ラメランス テクノロジーを開発。
簗瀬 香織
クラシエ ホームプロダクツ株式会社
ビューティケア研究所 第一研究部長代行
長年洗浄剤の研究で肌の「保湿」を考えており、まずは角質層中の水分のほとんどを抱え込んでいる角層細胞の水分保持機能を高める技術の開発に取り組んできました。成果として、2011年に汚れと一緒にアミノ酸が流出を防ぐ製剤の開発に成功しましたが、その先にもうひとつ、重要な要素が見えてきました。それが細胞間脂質です。なかでもラメラ構造が、角質層の水分保持機能のカギを握ることはわかっていました。しかしラメラ構造は非常に微細な構造物ですから、顕微鏡などを使っても、その構造を観察することは叶いません。そこで、世界最高性能の大型放射光施設「SPring-8」でラメラ構造の構造解析を行うことにしました。この研究によって、ボディ洗浄料の成分が、ラメラ構造に浸入して構造を崩していることが初めて明らかになったのです。
根本から「保湿」を問い直したこのラメランス テクノロジーを、ボディ洗浄料を皮切りに幅広くスキンケアの分野でも応用していくべく、研究を続けています。